洞窟からわき出る“化粧水”…壁湯温泉・福元屋

 2湯目は大分県玖珠郡九重町壁湯温泉。同湯は由布院、天ヶ瀬などを有する久大本線の沿線にあって筑後川の支流・町田川の河畔で湯けむりを上げている。一軒宿「福元屋(ふくもとや)」の天然洞窟壁湯は“美肌の湯”として支持を得ており、地場産食材を使った食事とあわせ体に優しい温泉だ。

 頭上に岩肌がのしかかり、崖上から常緑樹エカキシバ(タラヨウ)が洞窟湯を覆い隠すように町田川にせり出している。湯に漬かり、81歳、福元屋の三代目・岐部午二さんと湯談議を交わしていたときに午二さんが切り出した。「この湯は、化粧水になる」―と。

 毎週欠かさず立ち寄り湯する喫茶店のママが「私の化粧水」と断言しているのだという。畑で食材を栽培したり、四代目・榮作さん(49)を陰で支える午二さんの、81歳とは思えぬ肌の色つやもソレを証明している。

 初めて壁湯を訪ねたのは17年前。その時は夕食後に60代の女性2人と一緒湯した。バスタオルで胸から腰を隠してはいたが、私がいることを承知で「うば桜ですいません。これでも昔は…」そう言って入ってきた。透明な湯。何気なく目にした太もものつやっぽさ。慌てて2人の年齢を確認し煩悩を消したのだった。

 洞窟湯の泉温は38度を少し割り、体をやさしく包み込む。1時間入ってものぼせることはない。町田川にあふれ出る湯量は半端でなく、聞くと、1分間にドラム缶8本分がわき出ているという。気が付くと肌を微粒の泡とぬめりが覆い、湯成分が体に吸収されているような気持ちになる。単純泉の湯は炭酸とラジウムも含んでいるようだ。これが美肌効果なのか。

 JR久大本線豊後森駅から路線バスで30分、壁湯バス停で下車して1分。日本秘湯を守る会の宿でもある福元屋は、交通利便、難なく秘湯体験ができると、秘湯に憧れる老若女性を引き付けている。

 洞窟湯は24時間混浴だが、バスタオルOKなので臆せず入る女性は多い。洞窟湯の手前には完全穴蔵の女性専用洞窟湯があり、ほかに榮作さんが手作りし、源泉を加熱した貸し切りタイプの家族風呂が2つある。

 楽しみは豊後牛をメーンに地場食材にこだわるおかみ・貴美代さんの作る“鄙(ひな)料理”にもある。そして、ご飯。自家製香り米とひとめぼれをブレンドした「壁湯福米」の香ばしいこと。食事どころで60代4人組ご婦人は「このご飯をまた食べたくなったの」と再訪を話していた。私は香りをもつまみにして酒を干した。

 サマセット・モームは『月と六ペンス』の中で「一度、そのにおいをかいだならば、どんな遠くをさまよっておろうとも、最後に必ずタヒチにくる…」と書き、楽園タヒチの花ティアレをたたえた。旅人は壁湯福米に魅了されてしまった。

 ◆福元屋 部屋は9室。宿泊料金は1泊2食付き1万1000〜1万4000円。生ビール650円、エビスビール(中瓶)690円。山芋の茶わん蒸しが好評。各部屋に温泉を冷やした冷水がポットでお預けになっているので、体の内外から湯成分を享受できる。また、宿泊者以外の“立ち寄り湯”は大人300円、小人150円(午前7時〜午後10時)。

 ◆交通手段

 ▼電車 JR3万1000円 新大阪・山陽新幹線のぞみ―博多、博多・鹿児島本線久大本線ゆふいんの森豊後森(片道乗車券1万370円、特急券6170円)往復(乗車券は復割)
 ▼バス 960円(豊後森―壁湯)往復
 ※費用は1人分。2月23〜24日乗車の場合

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